▼ 中村謙太郎会員と岩森光会員の成果がNature Geoscienceにて発表されました

全く新しいタイプのレアアースの大鉱床を太平洋で発見
Deep-sea mud in the Pacific Ocean as a potential resource for rare-earth elements

加藤泰浩1,藤永公一郎1,中村謙太郎2,髙谷雄太郎1,北村健一1,大田隼一郎1,戸田隆一1,中島拓也1,岩森 光3 (1:東京大学工学系研究科、2:海洋研究開発機構、3:東京工業大学理工学研究科)

Nature Geoscience, on line, doi:10.1038/ngeo1185
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内容紹介:

(背景)
 レアアースは,最先端の電子技術や環境エネルギー技術に不可欠な元素であり,我が国の最先端産業を支えるための最重要な資源です.しかし,現在その95 %以上を中国一国が生産するという極めて脆弱な供給構造を持っています.2005年以降,中国はこれまでの輸出奨励政策から規制強化政策へと急激に方針を転換したため,レアアースの供給不足や価格急騰が懸念されてきました.さらに昨年の尖閣諸島沖での漁船衝突事件をきっかけとして,中国はついにレアアースの輸出停止・制限を行い,世界中にレアアースショックを与えました.現在もレアアース価格の上昇は続いており,今年6月の価格は1月と比べると実に3倍以上となっています.そのため,レアアースの安定確保は日本のみならず,世界の喫緊の懸案事項となっています.

(研究試料と方法)
 本研究では,東大海洋研究所の小林和男名誉教授らによって1968年~1984年に古地磁気の研究のために太平洋全域から採取された27本のピストンコア(海底堆積物; 総コア長=206 m,平均コア長7.6 m)と,国際深海掘削計画(DSDP: Deep Sea Drilling Project/ODP: Ocean Drilling Program)によって同じく太平洋全域から採取された51本の掘削コア (総コア長=2,491 m,平均コア長49 m)を用いて,そこから得られた2,037試料について,ICP-MSにより全岩化学組成分析を行いました.

(結果の概要)
 全岩化学分析の結果,南東太平洋において平均層厚8.0 m,平均総レアアース濃度1,054 ppm,中央太平洋において平均層厚23.6 m,平均総レアアース濃度625 ppmのレアアース資源泥が存在していることが明らかとなりました.この海域において,1平方キロメートルの範囲(深度10~70 m)でレアアース資源泥を開発するだけで,日本の年間レアアース消費量の0.5~1.5年分を供給することができます.さらに,大まかな推定では,この2つの海域には,陸上埋蔵量のおよそ800倍という膨大な量のレアアース資源が存在していることがわかりました.この高濃度のレアアースは,主に熱水起源の鉄質懸濁物質とフィリップサイト(十字沸石)への吸着によってもたらされたものと考えられ,回収したレアアース資源泥からは,薄い硫酸や塩酸により常温でも短時間でレアアースを浸出(抽出)することが可能であることもわかりました.

(今後の展望)
 現在確認されているレアアース資源泥の分布海域は,一部を除いてすべて公海上に位置しています.そのため,今後は国際海底機構(ISBA:International Seabed Authority)におけるマイニングコードの採択を経て,鉱区を獲得していくことになります.ちなみにハワイ沖のマンガンノジュールについては,すでに日本をはじめ,中国,ロシア,フランスなどの多くの国々が鉱区を獲得しています.

 またレアアース資源泥は水深3,500~6,000mの深海に分布していますが,このような深海の堆積物の開発に関しては,1979年に紅海の水深2,000mに分布する重金属泥(銅・亜鉛などの硫化鉱物を多く含む深海底堆積物)について開発テストがすでに行われています.現在のテクノロジーをもってすれば,紅海の重金属泥よりも深い深海からレアアース資源泥を採掘・回収することは十分に可能と考えられます.さらに,採掘したレアアース資源泥からは,薄い酸により短時間でレアアースを回収することが可能なため,精錬にも非常に有利な条件を兼ね備えている資源だと言えます.

 今後,今回発見された膨大な量のレアアース資源泥を実際に開発することができれば,15~20年で枯渇すると中国が主張する陸上のレアアース資源を完全に代替していくことができ,日本のみならず世界にとっても大変に重要な資源になると期待されます.