▼ 大竹真紀子会員らの成果が Nature Geoscience にて発表されました

Asymmetric crustal growth on the Moon indicated by primitive farside highland materials
Makiko Ohtake, Hiroshi Takeda, Tsuneo Matsunaga, Yasuhiro Yokota, Junichi Haruyama, Tomokatsu Morota, Satoru Yamamoto, Yoshiko Ogawa, Takahiro Hiroi, Yuzuru Karouji, Kazuto Saiki, & Paul G. Lucey

Nature Geoscience
内容紹介:

 太陽系の天体のうち、地球をはじめ月、火星など比較的大型の固体天体は、天体が形成された直後に表面が高温になり、マグマオーシャンで覆われていた可能性が高いと考えられています。ただし、月よりも大きな惑星天体では、プレート運動で表面が更新される、マグマオーシャンの固化後に流出した溶岩流で表面が覆われているなどの理由により、月のような始原的な地殻はほとんど残っていません。そこで我々の研究では、マグマオーシャンが存在した固体天体の中で、より天体形成初期の状態を保持したタイムカプセルとしての月、を調べることで、マグマオーシャンの固化過程を明らかにすることを目指しました。固化過程を調べるには、マグマから鉱物が析出する際に、固液分配により、鉱物のMg/Fe比がマグマの約3倍になる性質を使います(通常Mg/(Mg+Fe)のモル%で議論します)。すなわち、より多くの鉱物を析出した後のマグマはMg/Fe比が小さくなり(分化したマグマ)、そのマグマから析出する鉱物のMg/Fe比も小さくなるのです。
 解析に用いたのは日本が2007年に打ち上げ、2009年まで観測を行った月周回衛星“かぐや”によって取得した可視・近赤外波長域の分光データで、このデータを使って、月地殻に含まれる主成分鉱物・輝石((Mg,Fe,Ca)SiO3)のMg/Fe比を月全球表層で求め、Mg/Fe比の分布から、地殻の固化順序を推定しました。詳しいアルゴリズムはここでは省略しますが、鉱物の可視・近赤外波長域における月面反射光と鉱物化学組成の関係として、輝石の吸収中心波長が、輝石のMg/Fe比が高いほど短い波長にシフトする性質を利用します。
 解析の結果、地球からは見えない、遠い月裏側の赤道より北側に、表側からサンプリングされたアポロ試料よりも高いMg/Fe比を持つ、より未分化なマグマから固化した岩石が存在すること、また、月裏側から表側に向けて、連続的にMg/Fe比が低くなり、表にはより分化した岩石が分布することが解りました。我々が観測したMg/Fe比の高い領域は、同じく“かぐや”によって観測された、液層濃集元素であり熱源元素でもあるThの低濃度領域とも一致しています。観測された表裏のMg/Fe比分布の成因については今後も研究が必要ですが、我々は、地球が近接している事に起因する、マグマオーシャンの表裏温度差が効いているのではないか、と考えています。
 今回の結果は、固体天体に普遍的な形成初期段階である、マグマオーシャンの固化過程を直接的に観測した最初の例であり、今後地球や他の固体天体の冷却過程を考える上での基礎情報になり得るとともに、裏側で見つかった高いMg/Fe比から、地殻形成当時のマグマのMg/Fe比を推定できる、という意味でも重要だと考えています。