■九州大学大学院理学府化学専攻無機反応化学研究室

江藤真由美,赤松美里
 今回の研究室紹介は九州大学理学府化学専攻無機反応化学研究室をM2の江藤真由美と赤松美里が紹介させて頂きます。無機反応化学研究室には現在,横山拓史教授,宇都宮聡准教授,岡上吉広講師の3名のスタッフ,特別研究員1名,博士課程4名,修士課程9名,学部生5名の計22名が在籍しています。大学院生には,内部進学者だけでなく他大学出身者や留学生もいるオープンな研究室です。
 今年の3月にキャンパス移転のために現在の場所に移り,新しい研究室での生活をスタートさせました。図1は2008年度の卒業式の日に,移ってきたばっかりのキャンパスにて撮影した集合図になります。修士課程の先輩が卒業してしまって寂しい思いをしていたら,今年度は学部4年生が5人も入ってきて一気に大所帯になりました。この22名の学生と教授が同じ部屋にいます(図2)。
 私達の研究室ではケイ酸と有機物の相互作用についての研究,アルミニウムの環境化学,ナノジオサイエンス,岩石中の希土類元素の地球化学,金属カルコゲン化物への金の吸着,Fe-Mn クラストへのレアメタルの濃縮,かご型ケイ酸8量体の化学など幅広い方面について研究を行っています。特にケイ素とアルミニウムについては,学術研究者の白さん,D2の齊藤さんが,今年スイスでのゴールドシュミット国際会議にてポスター発表を行いました(図3,4)。また,ナノジオサイエンスではM1の上石さんがオーラルで発表しました。ゴールドシュミット国際会議では毎年誰かが発表することを研究室の目標としています。
 ケイ素はクラーク数2番目の元素で,おもにケイ酸塩やシリカとして存在します。熱水中での微生物表面へのシリカの沈澱についての研究のため,微生物表面がカルボシキル基で覆われていることから仮想モデルとして陽イオン交換樹脂を用いてシリカを吸着させたところ,金属イオンの存在が微生物へのモノケイ酸の吸着に重要であることがわかりました。
 アルミニウムはクラーク数3番目の元素で,酸性土壌ではAl3+が溶け生物に対して有毒であることが報告されています。近年,酸性雨などにより,天然水や土壌へのアルミニウムの溶出による影響が問題となっています。特に多核ヒドロキソアルミニウム錯体は6水和物イオンや単核ヒドロキソ錯体より強い毒性を持っており,その中の一つ,ε-Keggin 型アルミニウム13量体が土壌中に存在することが報告されています。そこで微生物表面や土壌粒子表面の仮想モデルとしてケイ素の場合と同様に陽イオン交換樹脂を用いて研究を行ったところ,アルミニウム13量体が樹脂に強く吸着し,いったん吸着した13量体は,広いpH 範囲で安定に存在することを確認しました。また,現在,ケイ酸植物であるイネへのアルミニウムの取り込み機構やアルミニウム耐性機構について研究するために,研究室内でイネの水耕栽培を行っています(図5)。皆に気にかけられながら順調に成長しているようなので秋にはアルミニウム入りのおいしいお米が実ることでしょう。
 宇都宮先生を中心とするナノジオサイエンスの分野では,大きなプロジェクトが動きはじめています。地下水帯中のコロイドによる有害元素の拡散,大気中の超微粒子に存在する重金属,地球表層物質中のナノ結晶の存在形態,安定性,挙動についてなど,地球表層に存在する膨大なナノ鉱物が地球に与える影響を,透過型電子顕微鏡を使用して,実験と天然試料分析の観察という2つのアプローチから明らかにしています。

 岩石中の希土類元素の地球化学では,希土類元素(REE)が互いによく似た性質をもつと同時に元素個別の特徴をもつ元素群であることから,鉱物生成の環境を示す情報が得られると注目されています。当研究室では,縞状鉄鉱床および菱刈金鉱床に着目して,まず地球化学試料中のREE 分析法を開発して,これらの鉱床のREE パターンからそれぞれの鉱床がどのように生成したか,を推測することを目的に研究を進めています。


 金の化学では,菱刈金鉱床などの浅熱水性金鉱床において,金が硫化鉱物近傍に分布することから,金(Ⅲ)錯イオンを用いて,金属硫化物への金の吸着挙動・還元挙動について研究を行っております。Fe-Mn クラストの化学では,海底に存在する鉄とマンガンで構成された堆積物,Fe-Mn クラスト中に様々なレアメタルが濃縮されていることから,その濃縮機構を検証するために,これまで,白金,パラジウム,金について研究を行ってきました。現在はクラスト中で最も濃縮率の高いテルルについて研究を行っています。ケイ酸8量体の化学では,かご型ケイ酸8量体の結晶の一つであるQ8M8にγ線を照射すると,かご内に水素が包摂されて安定に存在することから,この水素原子の基礎的性質や応用について,ESR を用いて研究を行っています。
 最後に研究室生活についてお話しますと,週一回,研究室全体のゼミがあり,学生が持ち回りで文献紹介と中間報告を担当しています。ゼミでの発表では新しい発見が多くあり,夜遅くまで議論が止まりません。実際の研究では現地にサンプリングにいったりもします(図6)。分析には研究室内では原子吸光分光計やイオンクロマトグラフを(図7,8)おもに使用しています。またSpring-8などの外部の測定施設もよく利用して研究しています。Al やSi の系では,振とう器による長時間の実験をし,NMR により化学種の同定を行っています。また学科内のイベントとして,研究室対抗のソフトボール大会があるのですが,今までは人数も少なく,他研究室との合同チームだったのに対し,今年はとうとう研究室単独でチームを作れるくらいに人数が増えました。また現在のメンバーにはソフトボールや野球の経験者も多いため,いいところまでいけるのではないかと期待しています。

 以上,簡単ではございますが当研究室の紹介をさせていただきました。このように研究も学生生活も楽しんでいる研究室です。近くに御寄りの際は,理学府なのになぜか旧工学部3号館4階にある当研究室にぜひお越しください。また大学院を受験される方を大歓迎いたします。興味をもたれた方は当研究室のHP(URL:http://mole.rc.kyushu-u.ac.jp/~ircl/)もご覧ください。