■九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門 無機生物圏地球化学研究室
 (赤木右教授)


九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門
無機生物圏地球化学研究室
博士課程2年大木誠吾
 みなさんこんにちは。今回は,九州大学大学院理学 研究院地球惑星科学部門無機生物圏地球化学研究室 (無機研)の紹介をさせていただきます。担当は博士 課程2年の大木です。どうぞよろしくお願い致しま す。

 本研究室は2011年4月現在,赤木右教授,石橋純一 郎准教授,島田和彦技術専門職員の3名のスタッフ と,大学院生6名(博士課程2名,修士課程4名), 学部生3名で構成されています。蛇足ながら,私ども の所属する地球惑星科学部門の女子学生の割合は2割 ほどなのですが,最近の我が研究室は女子学生の割合 が高く,今年度は遂に,男子学生よりも女子学生が多 いというなかなか珍しいメンバー構成となりました (図1)。

 まずは我々の研究室が掲げる目標について簡単にご 紹介致します。当研究分野では,地球化学,熱力学, 分析化学などを土台にして,生物が地球環境にもたら す影響を理解することを大きな目標として,日々研究 に取り組んでおります。例として,岩石を構成する元 素が生物により放たれる過程(風化),天然水中の元 素の変化を受ける過程(水質形成),海底などの高熱 環境(熱水系)における元素の移動,環境が生物に与 える影響(フィードバック),地球の活動に伴って元 素が移動や集積するプロセス(資源形成)や地下水の 通り道で起こる化学反応など,前述の三つの学問を用 いて捉えることができる様々な現象の解明を目指して います。本稿では,我々の研究室で進めている研究の 一部をご紹介致します。

 陸から海底に至るまでの物質の循環プロセスに,生 物がどのように関与しているかをテーマにしていくつ かの研究が並行的に行われています。風化反応は地球 の表層を循環する物質の起点となる過程で,リン,ケ イ素,カリウム,鉄など多くの生物にとって栄養とな る物質を,岩石圏から全ての生物圏に供給していま す。風化反応は二酸化炭素から見ても,空気中の二酸 化炭素が吸収され炭酸水素イオンとして水循環に入る 重要な反応です。更に風化反応の速度は,地球環境の 変遷と密接にかかわり合っていると考えられます。そ の風化反応に植物がどう関わっているか研究していま す。また,海洋生態系についても,特にケイ藻に注目 して,生物ポンプの研究を行っています。

 また,当研究室では南北両半球のミズゴケ堆積物を 用いて,過去1万年間の大気中二酸化炭素濃度の復元 を試みる研究を進めています。これまで,過去の大気 の二酸化炭素濃度を知るために,研究者は雪氷に閉じ 込められた空気を分析してきました。しかしながら, 1000年以内の短いタイムスケールでは,世界各所の雪 氷から得られた二酸化炭素濃度の変動は一致していま せん。藻類や鉱物などの混入,空気が閉じ込められる までの時間がかかる等の理由で,短いタイムスケール では誤差の影響が出やすく正確に求めることが難しい ためと考えられます。その点で,ミズゴケは,過去お よそ一万年にわたって堆積を続けてドーム状に盛り上 がった湿原を形成している,ミズゴケの気孔が退化し ているために大気中の二酸化炭素の濃度がミズゴケの 炭素同位体比にダイレクトに反映されると予想され る,といったユニークな特徴を持つため,ミズゴケ堆 積物を用いることで過去1万年の大気中二酸化炭素濃 度を復元できる可能性があります。また,ミズゴケ自 身が保持した水を利用して,気温,湿度等の気候情報 の復元する試みも進行中です(図2)。

 更に,我々の研究室で進めている研究を語る上で, 水分析を欠かすことはできません。水は多くの元素を 溶解させる能力があり,かつ液体として移動する速度 が速いことから地球表層で物質(元素)が移動する媒 体として重要な役割を果たしています。水は陸から海 洋へ陸源物質を運搬する媒体です。地下水や温泉に代 表される地殻内流体は陸だけでなく海底下にも存在 し,特に中央海嶺や沈み込み域などの活動的な海域に おいては陸上の大河に匹敵する大きな熱/物質フラッ クスを担っていることが分かってきました。中でも海 底温泉の湧き出し口(熱水噴出孔)の周囲に見られる 豊かな生物群集の発見は,地球上の生物圏はすべて太 陽エネルギーに依存しているという常識を覆すもので した。こうした生態系の一次生産者である「化学合 成」微生物は,熱水流体によって海底地殻内深部から 運ばれてくるメタンや硫化水素などの還元性物質の持 つ化学エネルギーに依存して有機物を生産し生命活動 を維持しています。さらに最近では,こうした化学合 成微生物群集は酸素が地球表層を覆う以前の原始地球 において原始生命から初期進化した姿を保持するもの であるという考えが提唱されており,多くの科学者の 注目を集めています。当研究室では,海底下の地殻内 流体の挙動を解明するプロジェクトの一翼を担って, 潜航調査や掘削調査などで得た試料の化学分析から生 命圏の繁栄を支える物質(元素)移動を解明する,或 いは生命圏が広がる海底下の化学環境を推定する研究 を展開しています(図3)。
 サンプリングや観察を中心とする研究,実験を中心 とする研究,仮説に基づいて進める研究,謙虚に地球 と向き合って進める研究等,研究のスタイルは多種多 様です。サンプリングは半数以上の学生が経験し,海 外,研究航海などのフィールド調査は,普段の研究室 での生活とは一味違った,なかなか経験できない貴重 な活動です(図4)。

 最後に普段の研究室生活について簡単にお話しま す。毎週火曜日には研究室ゼミがあり,教員と学生が 持ち回りで文献紹介と研究報告を担当しています。ゼ ミの発表では毎回議論が白熱しており,多くの新しい 発見をすることができます。また普段から教員と学生 間,あるいは学生同士で研究に対して積極的に議論を 交わすなど,研究室は常に活気に溢れています。また 学科内のイベントとして,不定期で地惑ソフトなるも のがあります。近くの野球場を借り切ってソフトボー ルに勤しんでいますが,何故か我々の研究室は高校球 児が毎年多かったため,毎回積極的に参加したりして います(最近は赤木教授も参加されました)。また研 究に疲れた時は,コーヒーを片手に雑談,飲み会や学 生間での小旅行など,多彩な研究室イベントを通して リフレッシュしています。多少,話の方向性がズレて しまいましたが,私どもの研究室は,何事においても 非常に活発なメンバーの集まりと言えます(図5)。

 以上,簡単ではありますが本研究室の紹介をさせて いただきました。紙面上では,残念ながらほんの一部 しかご紹介できませんでしたが,興味を持たれた方は 当研究室のHP(URL:http://coffee.geo.kyushu-u.ac.jp/)も併せてご覧いただければと思います。また大 学院を受験される方を大歓迎いたします。近くに御寄 りの際は,飛行機が頻繁に上空を通過する理学部本館 3階にある当研究室にぜひお越し下さい。