■名古屋大学年代測定総合研究センター

名古屋大学大学院環境学研究科地球環境科学専攻
地球史学講座博士課程1年・城森由佳
 第22回の「院生による研究室紹介」は,名古屋大学大学院環境学研究科地球環境科学専攻地球史学講座博士課程1年の城森が,名古屋大学年代測定総合研究センターからお届けいたします。現在当センターには,中村俊夫教授(センター長),鈴木和博教授,南雅代准教授,加藤丈典准教授,小田寛貴助教,田中剛名誉教授(招聘教員),研究員2名,技術補佐員4名,事務補佐員2名,そして学生8名(博士課程2名,修士課程4名,学部生2名)が所属しています(写真1)。センターの先生方は環境学研究科地球環境科学専攻の協力教員として協力講座「地球史学講座」を構成し,大学院講義を担当するとともに理学部地球惑星科学科の講義も担当されています。したがって,センターには,環境学研究科に所属している大学院生と,理学部地球惑星科学科に所属する学部4年生が混在するという,少し複雑な構成になっています。数年前まで,センターの学生は2,3名というのが通例だったのですが,ここ1,2年は学生の数に恵まれ,活気のある状況が続いています。また,現在6名の大学院生のうち5名は他大学からの入学者で,生粋の名大生が少ないというのが,当センターの特徴です。

 ところで年代測定という言葉を聞いて,みなさんは何を思い浮かべるでしょうか。一般の方ならば,考古資料の年代測定を思い浮かべる人が多いと思います。地球化学分野の方ならば,岩石・鉱物,堆積物コアの年代測定を思い浮かべる方が多いかもしれません。当センターは,これらの年代測定をタンデトロン年代測定分野(中村・南・小田)と新年代研究開発分野(鈴木・加藤)の2本柱によって推進している研究施設です。では実際どのような研究が行われているかをご紹介いたします。

 タンデトロングループでは,その名のとおりタンデトロン型加速器質量分析装置(写真2)を用いた14C年代測定研究が主として行われています。測定する試料としては,遺跡から出土した木材,炭化物,骨または古文書などの考古遺物や,堆積物,貝化石,海水,地下水,隕石などの地球科学的試料など非常に多岐にわたり,先生をはじめ学生たちの研究でもさまざまな試料を扱っています。現在,学生が取り組んでいるテーマは,古人骨や鉄製遺物中の14C 年代測定,屋久杉の年輪の14C 濃度測定などがあります。またこれまでの研究としては,遺跡から出土した漆の14C 年代測定,環状木柱列遺構の14C 年代解析,カマン・カレホユック(トルコ)の出土炭化樹木を基にした14C 編年などが挙げられます。当センターは加速器質量分析装置を所有しているため,試料調製から測定までを各個人が一連の流れとして行うことができます。これは大きな特色と言うことができるでしょう。また最近では,より微少量炭素での測定を可能にするための14C試料調製システムが組まれ,現在実用化に向けて準備が進んでいます。この他,Ge 半導体γ線検出器を用いた210Pb や137Cs の研究,表面電離型質量分析装置(Sector54)を用いたSr 同位体比の研究も積極的に推進しており,現在筆者は,全国規模で地質のSr 同位体比分布を明らかにすることを目指し,河川堆積物試料を用いた同位体比地球化学図に取り組んでいます。
 続いてCHIME グループについてですが,そもそもCHIME というのはChemical Th-U-total Pb isochronmethod の略称で,CHIME 年代測定法は,電子プローブマイクロアナライザー(EPMA,写真3)を用いて鉱物粒子の微少部分に少量含まれるウラン・トリウム・鉛を正確に定量分析し,高分解能で鉱物の形成年代史を決定する,名古屋大学で開発された地質年代測定法です。主に,ジルコン,モナズ石(モナザイト),ゼノタイムなどの副成分鉱物を対象として測定を行います。この測定法の特徴としては,電子線のビーム径が数μm と非常に小さいため,鉱物内の累帯構造の層ごとにビームを当てることができるところであり,ビーム径が大きいために複数の層を一度に測ってしまうことになる他の測定機器と一線を画すところとなっています。また最近ではビーム径をさらに縮小してより微小領域の測定を可能にするシステムの開発 も行われています。
 このように異なる分野の二つのグループが集まり,研究を行っているというのが年代測定総合研究センターの特徴と言うことができます。しかし「年代測定」総合研究センターといっても,筆者のように,Sr同位体比を用いた環境動態の研究や,大気エアロゾル中の14C 濃度の研究など,年代測定に限ったテーマを扱う人ばかりがいるというわけでもありません。また学内共同利用施設という性質上,文系,理系を問わずさまざまな分野の学生や研究者が学内からはもちろん,学外,国外からも当センターを利用しにやってくることが多く,それぞれが互いに交流しつつ,分野や所属の枠を超えた文理融合研究に取り組んでいます。

 センターの日常としては,週1回セミナーが開かれており,学生や教員が集合して発表者の研究内容や方向性が議論される場となっています(写真4)。学生だけでなく,先生や研究員の方にも発表をしていただくため,今取り組んでいるテーマは何かという情報交換の場でもあります。

   また,年に2度ほどセンター施設公開の場があり,その際にはセンター所属者が総動員で,見学に来られた方に装置の説明をしつつ案内をするということを行っています(写真5)。特に大学祭での施設公開は学外の学生だけでなく一般の方の参加も非常に多く,年代測定に対する興味の高さが伺える機会であるとともに,学生にとっては装置の説明をすることによって自分の知らなかった知識が逆に増えていくという格好の学習の機会(?)ともなっています。

 当センターでは,昨年度と今年度にかけて日本地球化学会での受賞者があるという喜ばしい事が続いています。昨年度は,鈴木和博教授が学会賞を,今年度は中村俊夫教授が功労賞を受賞されました。お二人とも長年の研究があってこその受賞です。我々学生も先生方のすばらしい研究成果に続くことができるよう努力していかなければならないと感じています。

 簡単ではありますが,以上で名古屋大学年代測定総合研究センターの紹介を終わらせていただきます。そのほかの詳しい内容はホームページにも載っておりますので,ご興味を持たれた方は是非ご覧ください(http://www.nendai.nagoya-u.ac.jp/ja/)。