地球化学の質問箱

本ページでは、「地球化学質問箱」にお寄せいただいた質問とその回答をご紹介します。

地球化学一般

地球化学とはどんな学問ですか?

 地球化学は、太陽-惑星系の形成と進化、地球内部に存在する物質の構造とその進化、さらには大気圏・水圏を含む地球表層や生命の誕生と進化などを「化学」を用いて探求する学問分野です。地球化学は、元素、同位体、化学種の存在度、分布、移動、変化を空間的あるいは時間的に取り扱い、それらを支配する法則や原理を見つけだすことにより、地球や太陽系の様々な現象の解明を目指しています。隕石や月試料などの地球外物質を対象とする宇宙化学も含めて地球化学と呼びます。

 対象とする物質は、固体地球や惑星を構成する岩石や堆積物、隕石、大気、海水や陸水、火山ガスや熱水、生物など、天然に存在する物質すべてと、合成や実験によって得られた試料です。また、これらの化学データに基づいた数値シミュレーションも行っています。

 近年は、人類活動による二酸化炭素の放出や海洋汚染など様々な環境問題が発生しています。化学的データに基づいて、現在の地球における物質循環と過去からの地球環境変遷を明らかにすることによって、環境問題に取り組むのも地球化学の重要な課題です。

(山本鋼志・平田岳史)

地球化学はどこの大学で学ぶことができますか?

 日本全国の多くの大学で学ぶことができます。多くの場合,地球惑星科学教室,地球科学教室,地学教室,環境系の教室の中に,日本地球化学会の会員の先生がいらっしゃるはずです。地球化学は,元々,分析化学から分かれてきたという経緯もあり,化学教室に属している先生もおり,研究室もあります。さらに,農学部に属している場合もあります。さらに,研究所にも,多くの地球化学の先生がいらっしゃいます。それぞれの大学のホームページから,調べるのが,一番確実な情報が得られると思います。

 また,このホームページの「お知らせ・各種情報」の「研究室訪問」でも,順次各大学・研究所の研究室紹介を行っています。是非とも参考にしてください。

(山本鋼志)

宇宙化学

隕石はどこから飛んでくるの?

 隕石の落ちてくる方向や角度をうまく観測できた例がいくつかあります。その観測データに基づいて、隕石の軌道を調べると、その軌道が「小惑星帯」を通っていることがわかりました。小惑星帯とは、火星と木星の間にあって、小さな惑星群が回っているところです。太陽から地球までの距離の2-3倍の距離にある軌道です。この小惑星帯で小惑星同士の衝突が起こり、その軌道が変わり、地球の軌道まではいってきたものが、隕石というわけです。

 このように大部分の隕石は、この小惑星帯から来ると考えられていますが、最近では、火星や月から来た隕石もあることが知られています。これは、火星や月に隕石が衝突して、火星や月の岩石が宇宙に飛び出し、それが地球にきたものです。これらの隕石に含まれている元素の割合などを火星探査のデータと比較したり、年代などから、そのようなことがわかりました。

(松田准一)

簡単に隕石をみわけるには?

 隕石は、地球の大気圏に入ると、大気との摩擦で表面が溶けるほどの高温に包まれます。隕石の大気圏に入ってくるスピードは秒速12kmというのですから、新幹線の約200倍、音速の約40倍の超音速です。大気中で割れることも多く、超音速による衝撃波が走るので、光とともにものすごい音もします。隕石の表面の溶けた部分は次々と剥がれ落ちていきますが、地表に落ちた後、この表面の薄く溶けた部分が固まって黒い皮のようになっています。これがあるかどうかで、隕石かどうかを簡単に判断できます。

 また、隕石は、地球に石のように見えても鉄分が多いので、ハンドマグネットのようなものでもくっつきます。地球の石ではこのようなことはありません。ただ、隕石の磁性のことを研究している人もいるので、そのチェックはしない方が良いでしょう。

(松田准一)

アポロは本当に月に行ったの?

 アポロ計画で持ち帰られた月の岩石や土を科学的に分析する限り,地球上の岩石や土には見られない特徴が見られますので月から持ち帰ってきたものと考えざるをえません。たとえば,月の海から持ち帰ってきた岩石の年齢を調べると 43億年から31億年の範囲にあることがわかります。地球の岩石で最も古いものは40億年で,それよりも古いものはまだ見つかっていません。また,月の表面を覆っている土は,銀河の果てや太陽から飛んでくるエネルギーの高い粒子(宇宙線)に長い間さらされているため,核反応を起こしてしまい,その影響でいくつかの元素の中の成分(同位体組成)が変化しています。地球では宇宙線の大部分が厚い大気にさえぎられてしまいますので,地球の表面の土や岩石ではこのような核反応はほとんど見られません。

 このように月の岩石と地球の岩石には大きな違いが見られます。アポロ計画で 持ち帰られた岩石・土の試料をいろいろな方法で分析していくことによって月がどのように造られ,どのように変化してきたかが徐々に解明されてきています。

(日高 洋)

環境化学

温室効果とは?地球の温暖化とは?

 物体は、その温度によって決まる波長の電磁波を出しています。そして、その電磁波の波長は、温度が高いほど短くなります。6000℃の太陽からは主に可視光線が放射され、平均15℃の地表からは赤外線が放射されます。可視光線は無色の気体には吸収されません。しかし、赤外線は、窒素や酸素のような等核2原子分子には吸収されませんが、水蒸気、二酸化炭素、メタンのような異核2原子分子や3原子以上の気体分子には吸収されます。大気中に存在するこの赤外線を吸収する気体を温室効果気体と言っています。

 さて、地球にやってきた太陽からの電磁波、主に可視光線は、約半分が雲による反射、空気分子などによる吸収、散乱によって失われますが、残り半分が地表に届き、地表を暖めます。地表からはその熱が主に赤外線となって大気に戻ります。その赤外線を大気中の温室効果気体が吸収して大気を暖めます。暖まった大気は赤外線を四方八方に放射しますから、その一部はまた地表に戻ります。この繰り返しで地表はさらに暖まります。最終的な地表の温度は、地表が受けたすべてのエネルギーを赤外線として放出する温度で、大気中の温室効果気体の濃度が高いほど、そのエネルギーが多くなり、地表の温度は高くなります。その温度上昇分を温室効果と言っています。上空に温室のガラスのようなものがあるわけではありません。

 なお、地表からは、赤外線放出の他、水を蒸発させたり、空気を直接暖めたりして失われるエネルギーもあります。これらを数字で表してみます。地球が受ける太陽放射を100(全地球平均で342 W/m2となる)とすると、地表が直接受ける太陽光は49ですが、地表からは、114が赤外線放射、 26が潜熱(蒸発)、5が顕熱(伝導)で失われ、計145が放出されます。この差の96が温室効果分です。これによる地表温度の上昇は平均33℃に達します。すなわち、地表温度は、温室効果気体が現在の濃度で15℃、まったくなければ零下18℃になります。

 また、地表から放出される赤外線は連続スペクトルですが、これら温室効果気体が吸収できない赤外線の波長領域(地球放射の窓)があります。放射と吸収を繰り返しながら高空に達しますと、だんだんこの吸収できない波長領域の赤外線の割合が増えます。さらに、その割合は、温室効果気体の濃度が増すとともに増えます。赤外線を吸収し、放射しなければ周辺の気体の温度は上がりません。また、地球が受け取るエネルギーと地球から放出するエネルギーは同じです。その結果、成層圏では、温室効果気体の濃度が増すと逆に気温が下がります。それで、成層圏の温度降下が温室効果増大を知る手段にもなっています。なお、オゾンは太陽からの紫外線を吸収して成層圏を暖めますので、その濃度変動にも注意する必要はあります。

 いずれにせよ、温室という言葉が一人歩きし、この赤外線放射吸収効果に誤った印象を与えています。正しく理解したいものです。

(角皆静男)

海に鉄をまくと大気中の二酸化炭素が減少し,地球温暖化を防げるというのは本当ですか?

 海の表面付近には,植物プランクトンと呼ばれる微生物が生息しており,陸上の植物と同じく,光合成によって二酸化炭素と水から有機物を作っています(これを海洋の一次生産と呼びます)。消費された二酸化炭素を補うために,大気から海洋に二酸化炭素が移動します。ただし一次生産が活発に起こるためには,窒素やリンなどの栄養素のほかに,わずかな鉄が必要です。鉄が欠乏している故に,一次生産の抑制されている海域があります。試みにこのような海域に鉄を散布してみたところ,光合成が盛んに起こることが確認されました。これを大々的に行えば,大気中の二酸化炭素を減らして地球温暖化を抑制できるかもしれない,というわけですが,そううまく事が運ぶのでしょうか。

 生成した有機物はやがて海洋深層へと沈んでいきます。その大部分は海底に達する前に酸化分解を受けて二酸化炭素に戻り,いずれは海水の動きとともにまた表面に戻ってきます。また,大量の有機物を分解するために,海水中の酸素ガス濃度が低下するでしょう。そのことが生物活動に悪影響を及ぼすかもしれず,またメタンや亜酸化窒素など他の温室効果気体を増加させ,かえって地球温暖化を促進してしまう可能性もあります。天然の化学過程のバランスを崩すことが,どのような副作用をもたらすかを正しく予測できるほど,我々はまだ十分に海のことを理解していないのです。長期にわたる観測と基礎研究を積み上げることが求められています。

(蒲生俊敬)

大気化学

大気中のオゾンは増えると困るの? それとも減ると困るの?

 オゾンに限らず大気中の化学成分の濃度は、今日の地球環境を決定する重要な因子です。従って、増えすぎも減りすぎも困ります。しかし昨今の環境問題を考えた場合、成層圏(高度約11km~50kmの大気、オゾンは高度25km付近で高濃度)のオゾンは減少が、対流圏(地表~高度約11kmの大気)のオゾンは増加が問題となっているといえます。

 成層圏のオゾンは太陽から降り注ぐ有害な紫外線を吸収する役割を持っており、生物が陸上で生息する上で不可欠です。オゾンホールとして注目を集めた成層圏オゾン濃度の減少は、地表に降り注ぐ紫外線量の増加を招き、私達人類を含めた生物の生息環境を脅かします。

 一方、対流圏に存在するオゾンは、光化学オキシダントの主成分であり、温室効果気体でもあり、さらに酸性雨などの酸性沈着物の生成に関わっています。今日対流圏オゾン濃度は増加傾向にあり、地球表層環境を考える上で危惧すべき問題です。

 このようにオゾンは、対流圏に存在するオゾンか成層圏のオゾンかによってその役割が異なり、濃度変動の環境影響を議論する上で分けて考える必要があります。

(松本 潔)

酸性雨が降るのは大気汚染の影響ですか?

 純水のpHは7ですが、大気中の二酸化炭素が十分溶けた水のpHは、二酸化炭素の大気中濃度からおよそ5.6になります。従ってpH5.6以下の雨を酸性雨と定義することが多いといえます。

 では、雨のpHが5.6以下になるのは、大気汚染の影響でしょうか。産業活動によって排出される大気汚染物質には硫黄酸化物や窒素酸化物があり、大気中で酸化されると硫酸の微粒子や硝酸のガスになります。これらが雨に溶けることにより、雨の酸性が強くなることは事実です。しかし雨のpHを考える場合、大気汚染にばかり目を向けていてはいけません。例えば火山ガスには二酸化硫黄などの硫黄化合物が含まれていて、これが大気中で酸化されると硫酸の微粒子が生じます。

 また、海の表面付近に生息するプランクトンの中には硫黄化合物を作り出す種類があり、この硫黄化合物も大気中に放出されると酸化されて硫酸の微粒子をつくります。産業活動の影響をほとんど受けていない地域でも大気には硫酸の微粒子が存在し、降る雨のpHも5前後或いはそれ以下の酸性を示すことが多いといえます。

 地球の大気には酸性を示す物質がもともと多く存在し、大気汚染の影響がなくても酸性雨は降るのです。もちろん、化石燃料の燃焼によって発生する硫黄酸化物や窒素酸化物が雨の酸性をより一層強めていることは事実であり、大気汚染による雨の酸性化が深刻な地域もあります。重要なことは、大気環境問題を考える上で、地球大気が持っている本来の化学的特徴を十分理解することが必要だということです。

(松本 潔)

温室効果気体(二酸化炭素など)の大気中濃度が増えて問題となっていますが、他の気体の濃度は一定なのですか?それはなぜ?

 地球の大気の99.9%は窒素(78%)、酸素(21%)、アルゴン(0.93%)で占められていて、これらの濃度は高度約100kmまでは地球上のどこへ行っても一定です。残りの0.1%が微量気体と呼ばれ、水蒸気、二酸化炭素などの温室効果気体、フロンなどのオゾン層破壊物質、窒素酸化物などの大気汚染物質などが含まれますが、微量気体の濃度は時間的・空間的に一定とは限りません。

 これら気体成分の濃度は生成速度と消滅速度のバランス、および大気中の存在量に対して生成・消滅量がどれほどの割合か、で決まっています。たとえば、窒素は土や水の中に存在する微生物の作用で生成(脱窒)、消滅(窒素固定)し、酸素は植物による光合成で生成、生物の呼吸で消滅しますが、これらのバランスはほぼ取れています。また、大気中の窒素・酸素の総量は年間の生成量(または消滅量)のそれぞれ2000万倍、2200倍もある(総量が完全に入れ替わるのに平均で2000万年、2200年かかることになり、これを平均寿命と呼びます)ため、よく混合された大気中では時間的空間的な変化がみられない、ということになります。

 一方、微量気体については、生成と消滅のバランスがとれていなかったり、平均寿命が短かったりするために、時間や場所によって濃度が変動する場合がよくあります。例えば二酸化炭素は生物の呼吸・光合成による生成・消滅や、海洋による吸収・放出がほぼ釣り合っていたものが、人間による化石燃料の燃焼で生成量が増えてバランスが崩れた結果、現在濃度が急速に増加していると考えられています。また二酸化炭素の平均寿命は約4年と短いので、季節による変動や、陸上と海上、北半球(先進工業国が多く存在する)と南半球で濃度に違いがあることがわかっています。一方、オゾン層保護のため生産が全廃されたフロン(クロロフルオロカーボン)の場合は、消滅(成層圏での紫外光分解)のみ起こるようになり、増加し続けていた濃度が減少に転じています。

 ただ、窒素や酸素の濃度は地球の誕生当初から一定だったわけではなく、地質学的・生物学的な進化の過程で変化してきたと考えられています。二酸化炭素の濃度も人間の現れるはるか前、氷期・間氷期のサイクルに伴って大きく変化したことが知られています。また近年分析技術が進んだ結果、大気中の酸素濃度が二酸化炭素濃度の増加に呼応して減少していることが確かめられました。大気主成分や微量成分の濃度がどのように変化してきたのか、将来どのように変化するのかについては、まだわからないことも多く残されているのです。

(豊田 栄)

オーロラはどうしてできるの?

 太陽から放出されたプラズマ(太陽風)が、地球の持っている磁気圏 内に入り込んで、大気と衝突して発せられる光がオーロラです。家庭の蛍光灯 と同じ放電現象です。太陽風と地球磁場のバランスによって見える範囲が変わ ります。現在では、たまたま極地方に出現していますが、今よりも地球の磁力 が弱ければ、もっと低緯度地域でも見られるようになります。オーロラは、太 陽風に磁場が作用して、大気とぶつかると発光しますので、地球以外でも、大 気と固有磁場を持つ惑星では観察できます。

(仙田量子)

オーロラはどこにあるの?

 電離層と呼ばれる地上100-500kmのあたりです。電離 層では、大気を 構成する窒素や酸素の分子や原子が、太陽光線などの宇宙線を吸収することに よって電子を放出し、イオンとなります。こ の分子、原子やイオンにプラズ マが衝突した際の発光現象がオーロラの光になります。つまり、宇宙からの影 響と地球大気の両方が重なる場所に、オーロラができます。

(仙田量子)

水圏化学

JAMSTEC かいれい KR06-15航海
海の水は川の水で薄まらないの?海の水はなぜ塩辛いの?

 まず、数字を上げます(4捨5入してありますので、数字の0は桁を表すだけです)。海の水の総量は、1,340,000,000立方キロメートルです。これを海の面積で割った平均の深さは3,700メートルです。また、この量は、地表の水全体の96.5%です。残りは氷河や山の雪で1.74%、次いで地下水で1.69%、凍土(地中の氷)の0.022%、湖水の0.013%と続きます。このすべての水を地球表面に等分にばらまけば2,700メートルの厚みになります。
 1年あたり、海から436,500立方キロメートルの水が蒸発して水蒸気となりますが、その約90%の391,000立方キロメートルが海上で降水となって戻ります(この中には陸で蒸発した水蒸気もあります)。陸には、111,000立方キロメートルの雨や雪が降り、一部はまた蒸発しますが、45,500立方キロメートルが河川水となって海に戻ります。すなわち、毎年、海水の総量の3,000分の1が蒸発し、29,000分の1が河川から戻ります。
 上記の数字は平均的なもので、不確かさもあり、年による変動もありますが、地球の表層の水がどこかへ行ってしまったり、新に加わったりすることはほとんどないので、海水の塩分が川の水でだんだん薄められていくことはありません。ただ、地球の温暖化で氷河や山の雪が融けると、その分、海水の塩分は下がります。過去の地球では、大きくは10万年周期で寒い氷期と暖かい間氷期を繰り返してきました。その氷期には、陸の氷が増えたため、海水の塩分は間氷期より、約3 %高かったのです。

 次ぎに、海水の塩分、塩辛さについて考えてみましょう。海水には、多い少ないはあれ、地球上のすべての元素が溶けています。最も多いのが塩化物イオン、次いでナトリウムイオンです。それゆえ、海水を嘗めると、塩化ナトリウムを水に溶かしたのと似たような味がしますが、同じではありません。まして、塩化ナトリウムという対(分子)が海水の中にあるわけではありません(海水は高濃度なので、いくらかイオン対をつくっている成分はあります)。海から取った塩を精製していくとだんだん純度の高い塩化ナトリウムになり、嘗めた味も塩化ナトリウムの試薬を溶かしたものと同じになるでしょう。逆に不純物を含んだ塩で料理をすれば、複雑な味になるでしょう。
 塩化物イオンでも、ナトリウムイオンでも、それぞれの成分はそれぞれ特有なメカニズムで海水に加わり、除かれています。一つ一つ皆違います。ただ、多少の共通点もあります。
 地球ができた時、地球はいったん融け、核、マントル、地殻に分かれました。この時に窒素、二酸化炭素、水、塩化水素、イオウなどの揮発性成分は、気化し、大気や海水の成分となりました。このうち、水に溶けたものは、海水の陰イオン成分となりました。同時に水素イオンもでき、これが岩石成分と中和反応を起こして、ナトリウムなど陽イオン成分を溶かしました。すなわち、陰イオン成分の量比は、地球誕生時に放出された水、塩素、イオウの量比に依存し、それが陽イオン成分の総量、塩分(塩辛さの程度)を決めます。そして、陽イオン成分の比率(塩辛さの中味)は、岩石成分と海水との反応によって決まることになります。
 さらに、海水中の微量成分の中には、この後、海に生物が生まれ、光合成を行い、発生した酸素が貯まり、酸化環境になった時、濃度を大きく変えるものが出てきました。鉄は減り、ウランは増えました。また、カルシウムやリンなど生物そのものに取り込まれて濃度を変えるものも出てきました。

(角皆静男)

海面下何千メートルという深海の水の化学組成はどうしてわかるのですか?

 いかなる深海であろうと,そこから海水をうまくサンプリングし,化学分析を行おうというのが地球化学者の基本的スタンスです。観測船から海中へ長いワイヤーロープを繰り出し,そのワイヤーロープに海水を採取するための特殊な容器(採水器)を取り付けて降ろします。採水器が目的の深度に到達したところで,船の上からメッセンジャーと呼ばれる重りをワイヤーロープに沿わせて降下させます。メッセンジャーが採水器の先端に当たると採水器のふたが閉まり,海水が採水器の中に閉じこめられます。こうして採取した海水を船上に引き揚げて化学分析を行うのです。ワイヤーロープとして被覆した電線を用いれば,船上からの電気信号で採水器のふたを閉めることもできます。また,超音波信号を送ってふたを閉める方式もあります。

 せっかく採取した海水が汚れたりしないように,採水器の内部は,あらかじめ十分きれいに洗浄しておかなければなりません。特に海水中にごくわずかしか含まれていない微量元素を分析するときは注意が必要です。このような採水に伴う汚染を避けるために,耐圧能力のある化学分析計を深海まで降下させ,現場で化学分析を行ってしまう方式も実用化されています。測定できる化学成分はまだわずかですが,今後の技術開発が期待されます。

(蒲生俊敬)

海洋深層水の年齢はどうやって測るの?

 宇宙線で生成される放射性物質の質量数14の炭素を使います。この炭素-14は5730年の半減期で放射壊変によって減少します。この減少を「時計」として使って深層水の年齢を測ることができます。

 核実験以前の、昔の大気中の二酸化炭素の炭素-14濃度はほぼ一定でした。海水が表層にあるときは大気と二酸化炭素を交換するため、大気に近い炭素-14の濃度を持ちます。その海水が沈み込むと時間が経つにつれ放射壊変によって炭素-14が少なくなっていきますから、その減少分から深層水の年代を算出できます。

 ただし、沈み込んだ海水は炭素の交換から全く孤立した状態になるわけではありません。海水は炭素-14濃度の異なる海水が混合したり、有機物の分解や炭酸カルシウムの溶解によって新たな溶存無機炭素が加わったりします。そこで先の年代は「深層水のみかけの年齢」と呼ばれます。

(小畑 元)

岩石化学

地球の中はどうなっているの? どうやって調べるの?

 地球は、半径が約6400kmのほぼ球形をしています。その内部も球殻(厚みをもった球面状の殻)が何層も積み重なったような構造をしており、地球の表面から中心に向かって深くなるに従い、物質の化学組成や構造、圧力、温度が変化します。地球の中心部では、360万気圧、5000度にも達すると考えられています。また、化学組成の不連続的な変化に基づいて、(1)地球表面を覆う厚さ約5-70km(海洋地域では薄く、大陸では厚い傾向がある)の地殻、(2)地殻の下から深さ約2900kmまでのマントル、(3)マントルの下から地球中心までの核の3つの部分に分けられます。(1)と(2)は主にケイ酸塩の岩石からなりますが、(1)の方がよりSi, Al, Ca, アルカリ元素(NaやKなど)に富み、Mgに乏しいという違いがあります。(3)は主にFeを主成分とする金属からなります。

 このような構造と組成は、さまざまな方法で調べられた結果、次第に明らかになってきました。一つは、地震波を使う方法です。すいかをたたいて実がつまっているかを調べたり、聴診器を当ててからだの様子を探るように、地震波の波の伝わり方から地球内部を調べることができます。この方法は、異なる層の境界がどこにあるかを調べる上では大変有用で、地殻、マントル、核の境界とともに、それぞれの中にも、深さ方向に大きく波の伝わり方が変化するところがあることがわかりました。例えば、核の中は、深さ約5150kmを境にして、外側の液体部分(外核)と内側の固体部分(内核)からなることが分かりました。

 しかし、地球内部を構成する岩石の種類や化学組成は詳しくは分かりません。実際の地球表面附近の岩石は、直接地質調査やボーリング(掘削)によって細かく調べることができますが、地殻およびマントルの上部付近に限られます。より深部のマントルの様子は、火山のマグマに含まれる地球内部の岩石や鉱物のかけら(それぞれゼノリス、ゼノクリストとよばれる)や、マグマそのものに含まれる成分を調べることによって(医学に例えるなら、血液検査によって)わかってきました。

 コアの物質を直接手に取ることはできませんが、地球全体の化学組成を隕石や太陽の化学組成から推定し、そこから地殻やマントルの成分を差し引いて化学組成を推定することができます。そのようにして推定された成分は、Fe, Niなどの重い元素に富むものです(より軽い元素も少し含まれているようです)。地球中心分に重い物質があることは、地震波の伝わり方や地球の慣性モーメント(自転の止まりにくさを表し、地球は密度が一様な球よりも止まりやすい)とも合致します。

 最近では、人体のCTスキャンにも似た、地震波トモグラフィーという手法によって、地球内部の3次元的な構造を細かくみることができるようになってきました。地球内部の電磁気的性質やニュートリノを使った新しい方法によって、地球の内部構造がより具体的に明らかになると期待されています。また、内部の流動現象(マントル対流や外核の対流)についてのコンピュータシミュレーションによっても、地球の内部では、人体のように活発に物やエネルギーが運ばれ、地球のダイナミックな現象を引き起こしている様子が分かるようになってきました。

(岩森 光)

岩石の化学組成は?

 地表付近に存在する元素の割合を重量パーセントで表した数字に,クラーク数というものがあります。クラーク数によれば,(1) 酸素49.5 (2) ケイ素  25.8 (3)アルミニウム 7.56 (4) 鉄4.70 (5)カルシウム 3.39 (6)ナトリウム2.63 (7)カリウム 2.40 (8) マグネシウム 1.93 の順番になります。これらの元素が岩石に含まれていると考えれば良いでしょう。

 これらの元素のうち,(1)の酸素は,他の元素と化合して酸化物を作ります。ということは,地表付近で一番多いのは(2) ケイ素の酸化物(二酸化ケイ素)となります。岩石の多くは,珪酸塩というSiO44-を基本骨格にもった鉱物が集まってできています。その基本骨格の一部をAl2O3が置き換えたり,基本骨格の間を他の元素が埋めたりしています。花崗岩・安山岩・玄武岩といった火成岩ではSiO2 50~70%,Al2O3 10~15%,Fe2O3 2~10%と,比較的化学組成が狭い範囲に限られます。

 一方,堆積岩のうち生物が関与した岩石は,生物の元素濃縮により全く異なった化学組成を持つものがあります,たとえば放散虫が集まったチャートという岩石はSiO2が90%以上,フズリナが集まった石灰岩はCaCO3 95%などがあります。

 産業総合研究所の岩石標準試料のホームページには,色々な岩石の化学組成が掲載されています。一度ご覧下さい。

(山本鋼志)