井上源喜会員

井上(松本)源喜会員プロフィール
井上(松本)源喜会員

 井上(松本)源喜会員プロフィール井上(松本)源喜会員は,東京都立大学で地球化学の研究を始められ,1992 年以来大妻女子大学社会情報学部助教授,1999 年以来同教授として活躍されています.井上会員の研究分野は有機地球化学の広い範囲にわたっていますが,バイオマーカーを用いる湖沼堆積物などの研究を南極大陸の塩湖やバイカル湖のような調査困難なフィールドで展開されてきました.温泉化学にも造詣が深く,2014・2015 年度および 2016・2017 年度の日本温泉科学会会長を務められています.井上会員が南極大陸の研究を始めるきっかけは,東京都立大学大学院理学系研究科博士課程 1年の時に学習院大学で開催された日本地球化学会年会(1974 年)で,恩師の半谷高久教授から千葉工業大学教授で第四次・八次越冬隊長の鳥居鉄也先生を紹介され,南極マクマードドライバレーの調査に参加しないかとの勧めによります.その頃は,南極大陸の有機成分の研究が皆無で世界のパイオニアになれると考え,博士課程から参加することになりました.井上会員は南極大陸のマクマードドライバレー地域調査には,1976-77,1980-81,1981-82,1983-84,1985-86フィールドシーズンの 11 月下旬から 1 月中旬の約 2 ヶ月間に 5 回参加しています. 井上会員の南極大陸の有機成分に関する研究は順調に成果が上がり,Nature を含む多数の国際学術誌に論文を発表されております.これらの研究が評価されアメリカ合衆国の南極地名委員会から,マクマードドライバレーの 1 つの池が Matsumoto Pond と命名されました.また,2007 年には日本有機地球化学会賞「学術賞」を受賞されました.

Matsumoto Pond in the McMurdo Dry Valleys

Matsumoto Pond in the McMurdo Dry Valleys,Antarctica (350 m long, 170 m wide;77o34’S, 161o04’E). The pond named by theUnited States Advisory Committee onAntarctic Names, and approved by theUnited States Board on Geographic Names onJuly 21, 1998 (See Wikipedia).

 また,井上会員は,バイカル湖の湖底堆積物コアを用いる長期古環境変動に関する国際共同研究 Baikal Drilling Project (BDP)で日本の主要なメンバーとして活躍し, 「地球環境変動の科学-バイカル湖ドリリングプロジェクト」 (古今書院)の編集代表をされました.BDP では 600 m のコア掘削に成功し,このコアを用い有機炭素などを指標とし過去 1,200 万年前から現在に至る寒冷化の傾向を明らかにしました.

 井上会員は,東大の綿抜邦彦研究室では,従来ほとんど研究が行われていなかった火山や温泉の地獄谷および源泉などの熱水環境における有機成分に関する温泉科学研究を展開し,興味深い研究成果を挙げてきました.これら一連の研究が評価されて 2013 年には環境大臣表彰(温泉関係功労賞)を受賞されました.

 南極研究に始まった鳥居先生と井上会員とのご縁は,2008 年に鳥居先生が他界されるまでの長い間にわたり続き,深い絆が築かれました.井上会員は,日本地球化学会の活動に大いに貢献された故鳥居鉄也名誉会員のご遺志を引き継ぎ,学会の若手会員の活動支援に役立ててほしいと願い多額の寄付をされました.このことにより,鳥居基金を鳥居・井上基金に名称変更して助成の公募を継続することになりました.

 ここで,日本地球化学会として,井上会員に深く感謝させていただきます.

2016-2017 年度日本地球化学会会長 圦本尚義